査定額が高かったから、この不動産屋にお願いしたのに、半年経っても全く売れない…」
そんな後悔をする人を、私は仕事柄、何人も見てきました。
なぜ売れないのか?それは、その査定額が「売れる根拠のない数字」だからです。
不動産を売ろうとした時、多くの人は「内装」や「日当たり」ばかり気にします。
しかし、プロ(鑑定・査定の実務者)が見ているポイントは全く違うのです。
不動産の値段を調べる際に、真っ先にやるべきことは「紙(公的資料)」を見ることです。
公的資料を備える役所の調査だけで、ほぼ売れる値段がイメージできるからです。
調査をする上で最も大切なのが「物件が接している道路」です。
役所調査を終えた後に現地調査をし、最後に相場の聞き込み。
15年間、金融機関や裁判所のために評価書を書いてきた私が、プロの視点で、役所調査、道路の重要性、嘘のない相場の見抜き方を、素人目線で解説します。
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机上の空論では分からない!「聞き込み」で見抜くリアルな相場
不動産会社に物件価格の聞き込みをすることで、売れる値段が鮮明にイメージできます。
筆者が不動産屋に聞き込みをしていたこと
私は毎日、不動産屋に『いくらなら売れますか?』と電話していました。
そこで分かった衝撃の事実は…
信託銀行やノンバンクからの机上査定依頼で、私は来る日も来る日も物件価格の聞き込みに追われていました。
ファックスで送られてくる物件の登記簿写しや住宅地図を基に、目ぼしい不動産屋に聞き込み電話をするのです。
「〇〇鑑定事務所の〇〇と申しますが、〇〇区〇〇町〇〇丁目〇〇(住居表示)の相場を教えていただけますか?」と。
真偽は別として、ほとんどの不動産屋は教えてくれます。
電話聞き込みの結果、銀行側の思惑にかなう物件が、査定案件として依頼されてきます。
そして、調査に出向くわけですが、現地調査の後には、物件近隣の不動産屋(複数)に立ち寄り、
役所調査で揃えた資料一式(物件の住宅地図、道路付き、用途地域など)をもって、ズバリ本物件の市場価格を聞くのです。
不動産屋の答えは、様々です。
真面目に答えてくれる人もいれば、面倒臭そうに適当に答える人、曖昧に答える人、話しをすり替える人…
駆け出しの頃、私は聞き込みのコツを、事務所の先輩から徹底的に教え込まれました。
- 先輩の教えとは
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- 聞く前に「資料をそろえろ」
- 不動産屋は、「媒介契約を取りたい、成約させたい」が本音
- 営業目線から「当事者目線」に切り返せ
- 売り出し価格ではなく「成約価格」を聞け
- 「根拠」を聞け
- 価格を聞いた後に、「その価格で売れる期間」も聞け
上記はどれも、至極大切なことです。
そして、様々な不動産屋さんに接した経験から、リアルな相場を見抜くには、次の3つの質問で詰めていくのが効果的だということを実感したのです。
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- 不動産屋さんが売るなら、いくらで売りますか?
- その価格で、どれくらいの期間で売れますか?
- 3か月で売れなかったら、次はいくらですか?
本音を言う不動産屋の共通点も知っています。
- 共通点
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- 低めの査定額を出す
- なぜその金額なのか、理由をしっかり話す
- リスクやデメリットも言う
(例)道路付きがネックなので相場の10%は安くなると思ってください。 - 売れる期間を話す
(例)3か月あれば5500万で売れる、売れなかったら5400万~5200万で売りましょう。
実際に調査した結果、電話聞き込みとの価格差が生じることは、当然あります。
その度、役所調査とリアル聞き込みの大切さがわかります。
不動産の価格には「4つの値段」がある(一物四価)
私は、地価公示や競売評価に携わった経験から、不動産の価格には下記の4つがあることを理解しています。
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- 実勢価格(時価)
- 公示価格(国が決めた標準)
- 相続税路線価(相続税の基準)
- 固定資産税評価額(税金の基準)
この4つの価格を、1つの不動産には4つの値段があるという意味で「一物四価」といいます。
なぜ、4つもあるのかというと、「不動産の価格を何に用いるのか」という目的によって、値段が違ってくるからです。
実勢価格は、実際に取引されている市場価格で売買の参考に用い、
公示価格は、一般の土地取引の目安や、公共用地の取得など様々な公的目的のために幅広く用います。
相続税路線価は、相続税の基礎となる価格で、相続が発生したときの相続税を決める際に用い、
固定資産税評価額は、固定資産税の基礎となる価格で、土地・建物に課す固定資産税を決める際に用いるのです。
すべての価格の基準となるのが「公示価格」で、不動産鑑定士が算出します。
売主さんが知りたい「売れる値段」というのは実勢価格で、公示価格の100%~110%で取引されることが多いです。
相続税路線価は、公示価格の80%程度。固定資産税評価額は、公示価格の70%程度の価格に決まります。
【実務の裏側】プロは市区町村の役所と法務局で「何」を調べているのか?
現地を見る前に、まず「紙(公的資料)」を見ることが鉄則です。
なぜならば、紙調査で不動産の価格は、ほぼ決まってしまうからです。
現地調査は、紙の内容を確認するための作業に過ぎません。
紙で把握した価格の微調整にすぎないのです。
まず法務局、次に市区町村役所の順番で調査をします。
【プロが見ている法務局調査のチェックリスト】
- 主なチェック項目
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- 登記簿: 売買を妨げる要因はないか?
- 公図: 必ずコピーする
- 地図: 備えがあればコピーする
- 地積測量図: 備えがあればコピーする
- 建物図面: 備えがあればコピーする
各項目の内容について、簡単に説明します。
- 登記簿(登記事項証明書や登記簿謄本)
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登記簿は、次の3区分で構成される。
- 表題部(所在地、地目、地積や建物の床面積などの物理的な情報を記載)
- 甲区(所有者の経緯が確認できる)
- 乙区(所有権以外の権利「抵当権や借地権の存否」が確認できる)
登記簿を閲覧し(又は交付してもらい)、物件の権利関係や物理的情報を調べる。
- 公図
- 土地のおおまかな位置関係や形状を示す図面。必ずコピーする。
- 地図
- 「14条地図」ともいい不動産登記法に基づく精度の高い図面。備えていない場合もある。
- 地籍測量図
- 土地家屋調査士による測量の結果を示す図面。備えていない場合もある。
- 建物図面
- 建物の形状、敷地内での位置、各階の平面図などを詳細に示した図面。備えていない場合もある。
以上の登記簿や図面の写しは、手数料を支払い、誰でも閲覧や交付請求ができます。
売買を妨げる要因とは
調査の際は、主に次の点に注意を払います。
- 表題部「地目が農地、採草放牧地」: 許可がないと売れません
- 土地を売るには、原則として農業委員会や都道府県知事の許可が必要。(農地法3条、5条)
地目が田、畑であれば、現況が宅地であっても農地法の許可は必要になるのです。
- 甲区「共有」: 全員のハンコがないと売れません
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共有者全員の合意がないと売却ができない。(民法251条)
「自分の持分は1/2だから、1/2だけは売却できる」← これはできない。
- 乙区「抵当権」: 借金が残っている証拠です
- 銀行等が融資の際に設定する担保権。買い手が付きにくく、相場の5割~8割が目安。
住宅ローンの残債があっても、自宅を売りに出して、売却価格がローン残債を上回れば、抵当権は決済時に抹消される。
- 乙区「地上権や賃借権」: 相当な減額を覚悟
- 地上権は土地、賃借権は土地や建物を使用・収益できる権利。地上権の登記は時々見受けられるが、賃借権は稀。
大都会では土地所有者の権利は大幅な制約を受け、かなりの減額が見込まれる。地域によって減額の割合(借地権割合)は大きく異なるので「路線価図」を参考にされたし。
【プロが見ている市区町村役所調査のチェックリスト】
- 主なチェック項目
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- 再建築の可否: 接している道路は「建築基準法上の道路」か?
- セットバック: 将来、敷地が削られる可能性はないか?
- 用途地域: 将来、隣に高いマンションが建つ可能性はないか?
- 市街化調整区域: 住宅は建てられないのではないか?
- 都市計画道路予定: 将来、立ち退きが発生しないか?
各項目について、簡単に説明します。
- 【最重要】再建築の可否はこれで決まる
- 再建築不可物件とは、要するに「今ある家を壊したら、もう新しい家は建てられませんよ」という土地のこと。
結論を言うと、建築や再建築ができる土地は「建築基準法上の道路」に2m以上接面していることが条件。
例外として「43条但し書き」と呼ばれる救済措置もある。建築基準法上の道路とは次のもの
- 道路幅が4m以上の公道と既存私道(法規制以前から存在する私道)。(建築基準法42条1項)
- 4m未満で特定行政庁(市町村など)が指定した「2項道路」。(建築基準法42条2項)
- 特定行政庁からその位置の指定を受けた「位置指定道路」。(建築基準法42条5項)
上記、建築基準法上の道路に2m以上接面していない土地は、再建築ができない。(建築基準法43条1項)
例外的に、2m以上接面していなくても、建築が認められる場合もある。
(特定行政庁が建築審査会の同意を得て、接道義務を満たさない土地を救済する特例)
この特例は「43条但し書き」と呼ばれているが、現在は「43条2項2号」に改められている。再建築の可否は建築指導課で調べます。
再建築できない土地は、相場の10%~50%程度になってしまうことも珍しくなく、最重要な調査事項なのです。
- 【重要】セットバック
- 幅4m未満の2項道路に接道する土地は、再建築の際、道路中心線から2m後退したラインが敷地境界線とみなされる。
要するに「あなたの土地の一部を、道路として寄付しなさい」ということ。
その分、自分の敷地が狭くなるので、建てられる家も小さくなってしまうのです。 - 用途地域
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都市計画法に基づき、市街地を13種類に区分し、主に建物の種類や規模を制限する地域。
用途地域によって制限される代表例は下記。
- どんな用途の建物が建てられるか?(住宅、マンション、商業ビル、工場など)
- 建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)
- 容積率(敷地面積に対する延床面積の割合)
都市計画課で調べます。
- 市街化調整区域
- 農地や緑地を保全するために指定された区域。そのため、原則として住宅などの建物は建てられない。
都市計画課で調べます。
- 都市計画道路予定
- 予定地内の物件は、将来、買収や立ち退きが発生する可能性がある。
建築制限が付くため近隣相場よりも安価になる。都市計画課で調べます。
【図解】再建築とセットバック等の補足
重要事項について、具体例を図解します。
- 再建築できる土地と、できない土地
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- セットバック
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- 建ぺい率と容積率
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具体例をあげて計算してみます
現地調査で道路の怖さを再認識
現地では紙と現況が一致しているか、間口・接面道路との状況や高低差、嫌悪施設の有無などの近隣環境などを確認します。
そして、物件全体や接面道路、紙情報との不一致部分(増築・工作物など)の写真撮影。
再建築不可の物件でも、生活の気配・痕跡があって、ちゃんと普通の家が建っていることがあります。
こうした家を見るたび「この家の住人は一度壊したら、もう二度と家を建てられないんだな」と道路の怖さを改めて思い知ります。
現地調査を終えたら、近場の不動産会社に飛び込んで相場の聴取。
聞き込みの後、事務所に戻り、調査書(評価書)を作成すれば一件落着です。
不動産屋の「無料査定」と、鑑定士の「鑑定評価」は何が違う?
不動産会社の無料査定は「市場価格(売れそうな値段)」を査定して、見込み客を集客するのが目的です。
一方、鑑定士の「鑑定評価」は、「法的・経済的な適正価値」を評価するのが目的で、裁判所などの証明資料にも使えます。
つまり、無料査定は営業ツール、鑑定評価は公的証明のツールなのです。
ネットの自動査定は危険
ネットの自動査定は信用すると危険です。
多くは成約価格ではなく、過去の売り出し価格データや周辺相場から自動算出しているのです。
算出元のデータが高いため、査定額も高めに出ます。
人の目を通さず現地確認や個別事情を一切考慮していないので、信用に値しません。
知人が利用しましたが、不動産業者から迷惑な営業メールが来るそうです。
トラブルを避けたい人にはオススメできません。
便利なサービスではありますが、あくまで参考にとどめておきましょう。
不動産の売主が知っておくべき不動産屋の「査定額」を鵜呑みにしないための心得
初めに、相場と売れる価格は違うことを理解しましょう。
相場は過去の取引から予測される平均値です。
売れる価格は、時期、需要、交渉力で上下します。
「相場=売れる価格」ではなく、相場よりも高くも安くもなるのが売れる価格。
その上で、下記の5点を心得てください。
- なぜ、その価格なの?
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- 査定額は疑う
- 根拠を聞く
- 売れる期間を聞く
- 数社で比較
- 成約価格だけを信じる
査定額は疑いましょう。
高い査定額を出して媒介契約を取ろうとする強き一点張りの業者もいる。
不動産屋さんも見込み客の獲得に必死です。
「査定額は媒介契約を取るための営業用の数字」であることを肝に銘じてください。
最初に、「今すぐ売るわけではない、相場感だけ知りたい」と伝えておくと、高めの査定を避けやすくなります。
根拠を聞くことが大切です。
「なぜその価格なのか?」と疑い、査定額の根拠(道路付けや用途地域など)を聞くことが大事。
返答しないときは、査定額も信じないように。
「成約事例はあるのですか?」とズバリ聞いてもいいですね。
不動産は安い値段でよければ短期間で売れますが、高い値段で売ろうとすれば買主が現れるまでの長い期間が必要です。
ですから、「この査定額だと、どれくらいの期間で売れますか?」と聞いてみましょう。
返答できないときは、高値を出している証拠。
そして、「正直、3か月以内に売るならいくらですか?」と聞き返してもいいですね。
ポロッと本音の価格を話してくれるかもしれません。
複数社で査定しましょう。
それぞれ得意分野があるので、大手、地元の不動産会社を交え複数社あたるのが良いです。
1社だけの査定は危険。
最低でも3社、できれば5社で査定額を取りたいです。
その中で3社中2社、5社中3社以上で似通った査定額が出たら、それが相場だと思います。
複数社で査定することで、それぞれの営業姿勢もわかりますし、信用できる・できないの見極めにもなります。
売主さんが知るべき答えは、実際に取引された「成約価格」。これだけが真実です。
東京のマンションは成約価格を教えてくれる業者さんも結構いますが、土地はあまりいません。
上記の方法を使えば、成約価格に近い「売れる価格」が推測できると思いますよ。
では、誠実な不動産屋さんに巡り合い、売主さんの希望に叶う価格で売れることを願っております。
まとめ
- 役所調査で売れる値段は、ほぼわかる
- 再建築の可否がわかる道路調査は最重要
- 不動産屋の査定額は営業用で高めになりがち
- 物件近隣で営業する不動産屋へ立ち寄り、聞き込みをすることが大切
- 成約価格だけが信用できる
